キャストケーキ/CAST CAKE 感想
“はずる”シリーズより、キャストケーキについて書きます。
大きなヒント・ネタバレを含む部分はクリックしないと見えないように隠しますが、まっさらな状態で取り組みたい場合は読むのをご遠慮ください。
評価:★★☆☆☆☆
デザイナー:Bram Cohen
発売年 :2016年
公式難易度:★★★★☆☆
体感難易度:★★★☆☆☆
クリア時間:外すのに18分、戻すのに2分
“はずる”シリーズが、まだキャストパズルの名で売られていた時代、それぞれの作品にはテーマとなる漢字一文字が設定されていました。タイトルを表したものや、ちょっとしたヒントになっているものなど様々で、表意文字の面目躍如といった様子でしたが、リブランディングに合わせて廃止されてしまいます。
キャストケーキは、ちょうどシリーズの“はずる”化と一緒に発売された作品なので、テーマ漢字はありません。……と思いきや、実は海外ではリブランディングの時期が遅かったため、しばらくは旧システムが生きていました。
キャストケーキに割り当てられた漢字は、「欠」。これはうってつけの選出でしょう。75度欠けたチョコレートケーキのような見た目を端的に表しており、ケーキ(CAKE)と欠けを掛けたジョークにもなっている。そして、無視できない欠点がある作品でもあります。
パズルのコンセプトやギミック自体は、とても面白いものです。外側を覆う殻状のパーツの中に、欠けた円盤が3枚。構造の大部分は外から見えないので、キャストニューズのようなからくりボックス系の“はずる”に見えますが、それともちょっと違います。少し弄るだけで全貌は明らかになるし、後ろ暗そうなものはなにも出て来ないのです。いつ監査が入っても大丈夫。ごく単純に構成され、情報は全て公開されているのに、なぜか外れない。ある意味、王道の知恵の輪かもしれません。ケーキはケーキでも血中から糖分を奪うタイプのケーキです。
しかし先に言及したように、キャストケーキは欠点を抱えています。なんといっても、操作性の悪さ。外殻に覆われた内部のパーツを動かしていくことになりますが、露出している部分が少ないため、かなりの器用さを要求されるのです。「手先のパズル」*1のように意図されたものではない分、もどかしさが募ります。
目当てのパーツの位置をなんとか調整すると、一緒に別のパーツも動いてしまう……。
パッケージには「パズルを解く“楽しみ”と“苦しみ”を十分に味わっていただくため、解答図は入れておりません」とありますが、こんなのはパズルを解く“苦しみ”ではなく、ただの苦しみです。この世にありふれた苦しみです。硬貨みたいに側面にギザギザがあってもいいんじゃないかなぁ。
ただ、しばらく弄っているうちにバーツ同士の摩擦が弱まってくるようで、段々とスムーズに動くようにはなってきます。
また、外すパズルとしては、解法が複数あることの是非が問われます。私が把握している限り、キャストケーキを外す方法は三通りあります。“はずる”シリーズは唯一解に拘っている節があり、別解を潰すためにリニューアルすることもあるので、これは由々しき問題です。でも、このケーキに関しては、三つのうち二つは意図された答えだと思います。問題はもう一つで、恐らくこれは作意の外でしょう。
個人的には、立体パズルに別解が生まれることは避けようがないし、それがパズルの楽しみを根こそぎ台無しにするものでなければ別にいいと思うのです。キャストケーキの場合はどうかと言うと、これがなんとも微妙なところです。別解には別解なりの面白さがありますが、ケーキのメインのギミックとは方向性がちょっと異なってしまいます。どちらかと言えば、この外し方は無効になった方が、シンプルな要素で構成されたパズルとしては綺麗に思えます。
もっとも別解を無くすということは、パーツの遊びを無くし、精密に作るということなので、前述した操作性の問題がさらに際立ってしまう可能性があります。
情報化社会の中、多くのパズルは3Dモデルデータとして生を享けます。しかしいざプリントされてみると、現実世界は製図ソフトの中に比べてあまりに要素が多く、パズルたちはその複雑怪奇さに苦しめられます。「ただし摩擦はないものとする」なんてことはないし、金属は変形するし、大量生産のコストとかも考えなきゃいけないのです。
キャストケーキは秀逸な発想から生まれた素晴らしいパズルですが、そのあたりの現実世界との折り合いに難があります。おしゃれで、手に取りたくなるデザインだと思うのですが、取り組むのはある程度“はずる”に慣れてからが賢明でしょう。
以下、解けない方向けのヒントです。
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