キャストアローズ/CAST ARROWS 感想
“はずる”シリーズより、キャストアローズについて書きます。
大きなヒント・ネタバレを含む部分はクリックしないと見えないように隠しますが、まっさらな状態で取り組みたい場合は読むのをご遠慮ください。
評価:★★★★☆☆
デザイナー:Andrei Ivanov
発売年 :2018年
公式難易度:★★★☆☆☆
体感難易度:★★☆☆☆☆
クリア時間:外すのに15分、戻すのに3分
「恋のキューピッドのいたずらでしょうか?」とは商品説明からの引用ですが、いたずらで済ましていいラインを大幅に超えている感のあるこのパズル、名をキャストアローズといいます。
キューピッドは金の矢と鉛の矢で恋心を操るけれど、キャストアローズは鉄製。鉄の矢です。風来のシレンでコドモ戦車が射るやつです。磁石を近づけてみると一目瞭然ですね。
“はずる”は基本的に亜鉛合金によるダイカスト*1で造られていますが、一部のより適した製造方法のあるものには鉄が使われています。*2アローズの場合は、厚さが均一で凹凸もないので、鉄板を切り抜くのが最適解だったのでしょう。
抽象化されたデザインに違わず、メインとなる仕掛けも複雑なものではありません。慣れている人なら、見ただけでやるべきことは分かるでしょう。でも、やっぱりこれは“はずる”です。ちょっとした味付けが、アローズをパズルたらしめています。
その一つは操作性。四本の矢に加えて、ハートも含めればパーツは全部で五つ。頭ではゴールが分かっていても、これらを二本の腕で操るのは存外大変です。私はいつも、こういった部分での難しさはもどかしいだけで、マイナスポイントだと思ってしまうのですが、アローズに関してはいい方向に働いている気がします。それはきっと、操作性も含めて作者の意図したデザインだからでしょう。思い通りに行った際の快感が、蓄積した苛立ちを上回る。「手先のパズル」*3的な側面を持っていると言えます。
隠し味はこれだけではありません。詳しくはネタバレありの感想で書くとして、ここで言いたいのは、アローズは複数の要素の掛け算の上に成り立った作品だということです。アメリカの実業家ジェームズ・ウェブ・ヤングは著書『アイデアのつくり方』の中で、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」と語っています。引用され過ぎてクリシェと化したフレーズですが、キャストアローズの本質はまさしくこれに尽きます。
最古の知恵の輪と言われる九連環が生まれてから、おそらくは二千年以上。数多のデザイナーによる試行錯誤を経た現代、根本的に新しい発想などそうそう出て来やしません。3Dプリンターといった技術は新風の呼び水となりましたが、それにだって限界が来るはずです。そもそも、モノの形のみで勝負する知恵の輪というフォーマットは、いわば香辛料が永遠に輸入されない西洋料理のようなもので、使える素材には限界があるのです。
そんな状況下にあって、キャストアローズの矢じりが見せた鋭さは、一筋の光明です。光の矢です。ゼルダの伝説でゼルダ姫が射るやつです。個々の要素は他の“はずる”にもあるものでも、その合体の妙によって新規性を生み出すことに成功しているのです。このようなアプローチが成立するのなら、“はずる”の今後の可能性は一気に広がります。いわゆる組み合わせ爆発。もちろん使い物にならない組み合わせも多いでしょうが、探求のうちに生ハムメロン的なものがどんどん発掘されることを切に願います。
以下、解けない方向けのヒントです。
ヒント