キャストハーモニー/CAST HARMONY 感想
“はずる”シリーズより、キャストハーモニーについて書きます。
大きなヒント・ネタバレを含む部分はクリックしないと見えないように隠しますが、まっさらな状態で取り組みたい場合は読むのをご遠慮ください。
評価:★★★☆☆☆
デザイナー:Dmitry Pevnitskiy、Kirill Grebnev
発売年 :2012年
公式難易度:★★☆☆☆☆
体感難易度:★☆☆☆☆☆
クリア時間:外すのに3分、戻すのに2分
キャストハーモニーの原作は、2010年の世界パズルデザインコンペティションに出品された「Harmony」です。結果はPuzzlers' AwardとJury First Prizeのダブル受賞。参加者投票と審査員投票ですね。大変な快挙を成し遂げたパズルにハナヤマが目を付け、キャストパズルとして発売される運びとなりました。
きっと、商品化にあたってはかなりの苦労があったでしょう。原作からして金属の鋳造によるパズルでしたが、繊細な造形は、工芸品のようにひとつひとつ作ることを前提としたもの。これを安価に大量生産する難しさは、素人目にも明らかです。結果、金色のト音記号には、オリジナルにはなかった継ぎ目がありますが、それほど気になるものではありません。パズルであることを抜きにして、千円くらいで買える金属のオブジェとしても見事な出来栄えです。
“はずる”は、基本的には触ってなんぼの玩具だと思いますが、だからこそ外見は大切。そもそも手にとって貰えなければ、なにも始まりません。「ギミック良ければいい そんなの嘘だと思いませんか?」です。
その点、キャストハーモニーのデザインは完璧です。個人的にもっと好みの見た目の作品は多々ありますが、ハーモニーが素晴らしいのは万人受けするところです。ト音記号が嫌いな人なんて居るかな。ヘ音記号は嫉妬してるかもしれないけど。親しみやすいモチーフは、大勢の目に留まります。そこには、パズルなんて全く興味がなかった人々も含まれているはず。高難易度作品が並ぶ“はずる”の売り上げ上位ランキングにハーモニーが食い込んでいるのは、求心力の証左です。
外すパズルとしては、良くも悪くもストレートです。形状を生かす工夫はちゃんと入っているけれど、すぐ答えに辿りつけます。ハーモニーではじめてパズルに触れた人でも、投げ出すことなくクリアできると思いますが、達成感が生じるかは人それぞれかな。
また、私が購入したものは、外すために若干の力が必要でした。細い部品を接合している関係で、ト音記号の形状に個体差が生じてしまっているようです。このくらいならアリかなと思うけれど、どのラインからが許されざる闇の力か……というのは知恵の輪の深淵を覗いているうちに徐々に身に付いてくる素養。「外せたけど、本当にこれでよかったの?」という疑念の種にもなりますし、ビギナーにとってはマイナスでしょう。
音楽に期待される効果の一つは、人を集めること。彼ら彼女らを売り場まで歩かせて、こんな品物が世にあることを認識させる。呼び込み君*1がやってるやつです。キャストハーモニーは無音ながらもその役目を果たし、“はずる”シリーズの玄関口と成り得る作品です。訪れた人をもてなす力はちょっと足りない気もしますが、ラインナップに存在していること自体に莫大な価値があることは間違いありません。
ところでこのパズル、ト音記号と八分音符としてあまりに過不足ない造形なので、デザイン先行型の作品と思いきや、実は違います。作者の一人、グレブネフさんが手がけた「Spiral」というワイヤーパズルが先にあり、それを見たペブニツキーさんがト音記号の形にすることをひらめいたそう。私も幼少期にテープカッターにカタツムリの飾り付けをして喜んでいましたが、この慧眼には脱帽です。
以下、解けない方向けのヒントです。
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