はづれぐさ

“はずる”シリーズ(旧キャストパズル)を中心に、感想・よしなしごとを書くブログ

キャストヴォルテックス/CAST VORTEX 感想

“はずる”シリーズより、キャストヴォルテックスについて書きます。
大きなヒント・ネタバレを含む部分はクリックしないと見えないように隠しますが、まっさらな状態で取り組みたい場合は読むのをご遠慮ください。


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キャストヴォルテックス CAST VORTEX
評価:★★★★★★
デザイナー:Akio Yamamoto
発売年  :2008年

公式難易度:★★★★★★
体感難易度:★★★★★★
クリア時間:外すのに1時間40分、戻すのに2時間30分(戻しは、外しながら取ったメモを見ながら)

 

キャストフラグ、ホースを解いて、“はずる”にすっかり魅了された私が、三番目に購入したのがキャストヴォルテックスでした。三面六臂の阿修羅像から着想を得たという、光沢を帯びた三つのパーツが目を惹く作品です。「次はパズルとして歯応えのあるものをやってみようかな」くらいの軽い気持ちで選んだのですが、なかなか手厳しい洗礼を受けました。きっとヴォルテックスを解く歯応えは、それを噛んだときの歯応えとさして変わりません。エニグマやカルテットと並び、最難関と称されることも多いようです。

外すだけなら、そこまで難しいパズルではないでしょう。盲点となるような仕掛けがある訳ではないし、挑むものを陥れようとする罠もありません。ギリギリ通れる隙間を探すという“はずる”の王道と真正面から向き合えば、いつかは外せます。ついに三つに分かれた後に残るのは、確かな充足と、復元への絶望です。
そう、問題は戻す方で、とにかく試せることが多い。しかも自分が間違った道筋を歩んでいるとしても、それに気づくこと自体が困難なのです。行き止まりに宝箱が置いてあるダンジョンがいかに親切なのか、身に沁みます。それでも私がなんとか復元できたのは、外しながら帰り道の要所をメモしていたおかげです。子供の頃ヘンゼルとグレーテルを読んでおいて助かった。*1

でも、解けてから振り返ってみると、この作品の難しさは意図的なものではないように感じます。組むための正解ルート自体は、ひたすらに厳格なだけで、決して意地悪ではありません。正当な手続きをいくつも経たうえで、やっとお目通しが叶う重鎮を思わせます。
きっと、もともと善なる神であった阿修羅が、自身の正義に固執した末に鬼神とされたように、ヴォルテックスは造形を極めた結果としてレベル6になっちゃったんじゃないでしょうか。発売当初はレベル5だったらしいですが、それもなんとなく分かる気がします。
いわば、天然モノの難しさ。
「簡単にクリアさせてたまるものか」というデザイナーの執念を感じることも多い高難度作品の中で、ヴォルテックスの凛とした佇まいは異彩を放っています。美しさと難しさを高水準で兼ね備えた、まさに傑作です。

以下、解けない方向けのヒントです。

ヒント①

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三つのパーツにはそれぞれ、HANAYAMA、A.Y、VORTEXの刻印があり、どれも数字の9のような形をしています。これらのパーツの位置関係をしっかりと把握することが、外すにも戻すにも肝要です。コレとコレのココが絡み合っていて、さらにコレとコレが……というように言語化することを目指しましょう。
 

ヒント②

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このパズルでは、かなり狭い隙間にパーツを通すこともあります。仮にパーツAをパーツBの穴に通すとして、このとき注目すべきなのがもう一つのパーツCです。Cの位置や角度をうまく調整することで、するりと抜けるかもしれません。
 

ヒント③

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組み上げるためにはパーツを噛み合わせる順番が大切なのですが、それを抜きにして、手順の枠組みを書いてみます。
3つのパーツにはそれぞれ、大きなループ(9の字の書き終わりの部分)と小さなループ(9の字の書き始めの部分)があります。まず、大きなループどうしを絡ませて、それぞれが他の2つと繋がっている状態にします。3つの円でできたベン図みたいな感じです。
その後、小さいループを別のパーツの大きなループと絡ませていきます。Aの小ループをBの大ループへ、Bの小ループをCの大ループへ、Cの小ループをAの大ループへと、3回です。
ここまでできれば、後は細かな位置関係の問題です。動きを阻害している部分がどこかをよく観察して調節すれば、ふと初期状態に戻せるはずです。
 
以下、ネタバレを含みます。解いてからご覧ください。

ネタバレあり感想

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私が外すときに一番苦戦したのは、鎖状になる直前、A.YとHANAYAMAの絡みを解くところです。何回もここは通らないだろうと諦めたのですが、実はVORTEXが絶妙に干渉していたせいでした。VORTEXは審判に気づかれないように反則をするのが上手いタイプだと思います。
戻す行程ではA.Yが結構な曲者で、VORTEXに入れたはずのループがちょっとのことで抜けたり、終盤では突起の位置に謎のこだわりを見せたり、外しのときの大人しさが嘘のような傍若無人っぷりをかまします。
もう一人のHANAYAMAは、正直これといった印象がありません。細くなってる部分も一番奥の方にあるし、多分あまり表に出ない性格だと思います。きっといいヤツです。

*1:パンくずリストという用語があるように、パンくずは道標的なものの象徴になっていますが、これはちょっと変な話です。ヘンゼルが撒いたパンくずは鳥に食べられてしまって、結果二人は迷い、お菓子の家に辿り着いてしまうのですから。道標としてちゃんと機能したのは、序盤で登場した白い小石の方です。真の功労者が評価される日は来るのでしょうか